相続税申告の流れを解説!期限に注意して各種手続を進めよう
相続開始後、相続や遺贈により遺産を受け取った方は相続税の申告と納付をすることになります。
その申告を行うためにはどんな手続が必要なのか、いつまでに行わなければいけないのか、ここで「相続発生から相続税申告までの流れ」をまとめます。
相続開始から7日以内に死亡届の提出
まずは、亡くなったことの報告の手続を行います。
そこでまずは医師が作成した「死亡診断書」を取得しましょう。
そして「死亡届」を作成し、これを市区町村役場に提出します。
提出できる市区町村役場は、①被相続人の最後の住所地、②被相続人の本籍地、③被相続人が亡くなった場所、④届出人の住所地、のいずれかです。
また、死亡届の届出期間は、“被相続人が亡くなったことを知った日から7日以内”と定められています。
ただ、葬儀会社が代行で死亡届を提出してくれることも多いため、その場合は手続方法などを細かく把握する必要はありません。
なお、死亡診断書の作成費用などは相続税を計算する際に「葬祭費用」とすることができます。つまり、支出した費用については相続財産から控除することができます。
他に葬祭費用として認められるものには、お通夜の費用、告別式の費用、火葬や埋葬の費用などが挙げられます。
相続開始から3ヶ月以内の手続
続いて、相続開始から3ヶ月以内に行うべき手続をまとめます。
遺言書の確認
遺言書の確認は、相続開始後早い時期に行いましょう。
被相続人が遺言書を作成していない可能性もありますが、作成されていないことの確証が得られないのであれば、各所を確認して遺言書の有無を調べる必要があります。
次の場所を探す、あるいは問い合わせると良いです。
- 被相続人の自宅
- 公証役場
公正証書遺言を作成した場合、原本は公証役場に保管されている
- 法務局
自筆証書遺言を自宅で作成した後、法務局で保管してもらう制度を利用している可能性がある
遺言書の存在は、後に行う遺産分割協議に大きな影響を与えます。遺言書で遺産分割の方法や特定財産の取得者が指定されている場合、相続人らが決定できる範囲は狭まります。
なお、発見した遺言書の封は開けないように注意しましょう。
家庭裁判所に遺言書を持っていき、「検認」の手続を行います。
※検認とは、“相続人に遺言の存在と内容を知らせる”、“検認時点における遺言書の内容を明確にして偽造や変造を防止する”ことを目的とする手続。遺言の有効・無効を判断するための手続ではない。
相続財産の調査と評価
相続財産の調査および当該財産の評価も進めていきます。
調査や評価自体に「3ヶ月以内にしないといけない」というルールが適用されているわけではありません。
しかし相続放棄や限定承認の申述は3ヶ月以内に行わなければならず、その手続の検討を行うために、相続財産の内容を把握する必要があるのです。
そこで、被相続人が所有していた現金や預貯金、不動産、有価証券、借金など、ほぼすべての財産を調べていきます。財産の有無、そしてその価額についても評価していきます。
下表で簡単にまとめますが、調査方法の詳細は状況により異なりますので、税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
主な調査対象 |
調査方法や評価方法 |
---|---|
現金や家財 |
・被相続人の自宅を調べる ・財布以外にも、意図的に隠されていることもあるため、いわゆる“タンス預金”にも注意して調べていく |
預貯金や有価証券 |
・自宅に通帳や金融機関からの書類がないか、調べる ・金融機関の特定ができれば、“残高証明書”の発行依頼を行う ・“取引明細書”の発行依頼も行うことで、被相続人がどのような契約を交わしていたのか、手がかりを掴むことができる |
不動産 |
・自宅や宅地、駐車場、賃貸アパートなどを、税金関係の通知書等から手がかりを掴む ・路線価方式や倍率方式など、不動産の種類や状態に応じた評価方法がある |
負債 |
・借金などマイナスの価値を持つ財産も要チェック ・相続放棄や限定承認の検討における重要な要因となる ・口座の取引履歴、自宅の書類などから手がかりを掴む ・JICCやCIC、KSCなどの信用情報機関への照会により金融機関が特定できることがある |
相続財産の調査、特に価額の評価については専門知識が必要とされます。また、評価額は相続税の税負担にも影響してきますので、適法な範囲で評価額を下げる工夫も施すことが大事です。
そのため税理士や、財産の種類に応じた専門家にも協力を求めるようにしましょう。専門家への依頼費用が発生しますが、大きな費用対効果が期待できます。
法定相続人の調査
被相続人の戸籍を集めることで、法定相続人の調査を行います。
「誰が法定相続人なのか」がわからなければ遺産分割協議も始められないからです。早いうちに調査を進めておく必要があります。
戸籍の収集についてですが、被相続人の死亡から出生まで遡り、すべての戸籍を集めていかなければなりません。戸籍を漏れなく集めること、戸籍の内容を読み取り、民法の規定と照らし合わせて法定相続人を確定させていくことになります。
離婚や養子縁組をしてきた方の場合は法定相続人を確定させる作業がより複雑になってきますし、作業に不安がある場合は専門家に依頼をしましょう。
相続放棄・限定承認の申述
相続には次の3つの選択肢があります。
①単純承認する
相続人として被相続人の権利も義務もまるまる承継することを受け入れる
②相続放棄する
相続人としての立場を捨て、初めから相続人ではないものとして扱ってもらう
③限定承認する
プラスの財産から債務等のマイナスの財産を控除し、残った財産に限って相続する
選択肢②または③を選ぶ場合、相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に手続を行う必要があります。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
3ヶ月以内に一切のアクションを起こさない場合は、単純承認をしたことになります(法第921条第1条第2号)
※相続財産を処分したりしたときも同様。
(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
相続をする場合は、放置していれば勝手に単純承認したことになります。法定相続人の方が特にすべきことはありません。
しかし相続財産の調査をした結果、大きな借金が残っていることが発覚した場合は、相続放棄あるいは限定承認を検討することになります。何も考えず承認してしまうと、相続人が借金返済の負担を負うことになってしまうからです。
相続開始から4ヶ月以内に準確定申告
日本では、1年間に得た所得の額に応じて、所得税を納付しないといけません。
会社員の方などは会社でその作業を行ってくれてしますが、個人事業主の方や副業で一定額以上を稼いでいる方などは、確定申告を毎年行っています。
亡くなった方についても同様で、死亡するまでに、その年で稼いだ所得について申告を行う必要があります。これを“準確定申告”と呼びます。
相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に被相続人の所得や経費などをまとめて、申告しないといけません。
確定申告の手続に慣れていない方がほとんどと思われますし、自分以外の所得等の内容は把握ができていないため、大変な作業になることが想定されます。
期限も長くは設けられていませんし、困ったときはすぐに税理士に任せるようにしましょう。
相続開始から10ヶ月以内の手続
次に、相続開始から10ヶ月以内に行うべき手続について説明していきます。
相続人全員で遺産分割協議
“相続財産の調査”や“法定相続人の調査”が済み、誰が相続人になるのかが確定すれば、遺産分割協議を始めます。
遺言書の内容も確認し、遺言で指定されている財産以外について、誰がどれだけ取得するのかを話し合いましょう
分割の仕方、取得割合などは自由に話し合うことができますが、揉めることもありますので、基本的には法定相続分に沿った分割をすると良いでしょう。
法定相続分に従えば、被相続人の配偶者と子どもで1/2ずつ分け合うことになります(子どもが複数いるときは、その1/2をさらに人数で平等に分ける)。
相続税申告書の提出
各々の取得分が確定すれば、相続税の計算を行いましょう。
少なくとも遺産の総額が3,000万円以下であれば、相続税に係る基礎控除が適用されて相続税の納付および申告自体も必要がなくなります。
基礎控除額は法定相続人の数に応じて増額します。次の計算式に従って算出されます。
基礎控除額 = 3,000万円+600万円×法定相続人の数
その他控除の適用により納付額が0円になることもありますが、配偶者控除など一部の控除については適用させるために申告が必要です。
納付額が0円だからといって申告まで不要になるわけではありませんので要注意です。
また、相続税の計算は複雑で、税制に精通している方でなければ正確に把握するのが難しいです。多数の控除や特例が設けられていますし、相続の開始から10ヶ月以内に申告を済ませなければいけないという問題もあります。
相続税の納付
相続税の申告と同様、納付額がある場合には、相続税の納税も10ヶ月以内に行わなければいけません。
電子納税など、複数の手段がありますし、遅れることのないように対応しましょう。
仮に相続税の申告や納付をしない、あるいは期限に間に合わなかった場合、税制上のペナルティを課されることがあります。
申告しない人に対しては「無申告加算税」、相続財産を隠していたりしていた人に対しては「重加算税」が課されるなど、本来の納付額より負担が増えてしまいます。
必ず申告・納付の義務は果たすようにしましょう。
相続税の申告手続は税理士に相談
ざっと全体の流れを説明しましたが、それでも相続人となる方がしないといけない作業の多さがおわかりいただけたと思います。限られた期間で多数の手続を進める必要があり、各手続を進めるために必要書類を市町村役場で取得したり書類作成をしたりもしないといけません。
また、相続税の計算など一般の方が対応するのが難しい作業内容も含まれます。税理士に依頼することで手続はスムーズになり、正確性も向上します。節税効果が得られることもありますし、まずは税理士に相談してみることをおすすめします。
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