今から取り組む相続税対策|生前贈与の注意点や相続開始後にできることなど
相続税対策はできるだけ早期に取り組む方が大きな効果を得やすいです。「今からだと遅いかも」と思うこともあるかもしれませんが、無意味ということはありません。
ここで有効な相続税対策について紹介するとともに注意すべき点なども併せて解説いたします。
主な相続税対策
相続税対策にもいろんな手法があります。
「財産を減らす」ことが基本的に有効ですので、次に掲げる行為が節税対策として挙げられます。
- 生前贈与を行う
※特に以下の対策が有効- 夫婦間でするおしどり贈与
- 住宅取得等資金の贈与
- 教育資金の一括贈与
- 結婚・子育て資金の一括贈与
- 不動産を購入する
- 墓地や仏具を購入する
- 生命保険に加入する など
また、相続税の仕組みを有効活用するため、「養子縁組を行う」「小規模宅地等の特例が使えるようにしておく」などの施策も節税につながります。養子縁組を行うことで基礎控除額を最大1,200万円(実子がいるときは最大600万円)増額できますし、小規模宅地等の特例が適用できれば土地の評価額を最大80%も減額できるからです。
生前贈与が効果的
数多くの節税対策がありますが、生前贈与が比較的取り組みやすく効果的といえます。
生前贈与を行うことで将来遺産を構成するはずであった財産がなくなりますので、その贈与財産については原則として相続税が一切かかりません。極端な話、相続前一定期間までに被相続人のすべての財産を贈与しておけば相続税が課税される財産はゼロで、税負担も発生しません。
※3,000万円以上の基礎控除があるため、少なくとも3,000万円相当の財産を保有していても非課税で相続可能。
ただし贈与を行うことで贈与税が課税されてしまいます。贈与税は相続税を補完するための税であり、基本的には相続税よりも負担が大きいです。そのため生前贈与を行うときは贈与税の仕組みをよく理解し、基礎控除やその他特例などを上手く使いながら贈与を行わなければいけません。「財産を渡しておけばいい」などと簡単な問題ではありませんので、生前贈与を実行する前には一度税理士に相談することをおすすめします。
知っておきたい贈与の特例
贈与税に関する特例には次のような種類があります。これら特例の要件を満たせる場合は税理士に相談しながら利用も検討してみると良いでしょう。
贈与税の負担が減らせる特例 | |
---|---|
配偶者控除 | 「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」参考:国税庁 No.4452
・基礎控除110万円に加え最高2,000万円まで控除ができる特例 ・婚姻期間20年以上の夫婦間でする、居住用不動産(または新しく自宅を建てるための資金)の贈与が対象 ・相続税における配偶者控除で1億6,000万円または法定相続分まで非課税で受け取ることができるが、自宅用財産の相続によってこの範囲を超える場合で特に有効。ただし、不動産取得税や登録免許税の負担が発生する点には注意が必要 |
住宅取得等資金の贈与 | 「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」参考:国税庁 No.4508
・住宅取得などを目的とした資金について、最大1,000万円まで非課税にできる特例 ・父母や祖父母などがその子どもや孫などに対して行う贈与が対象 |
教育資金の一括贈与 | 「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」参考:国税庁 No.4510
・学費などの教育資金について、最大1,500万円まで非課税にできる特例 ・父母や祖父母などがその子どもや孫などに対して行う贈与が対象 |
結婚・子育て資金の一括贈与 | 「直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」参考:国税庁 No.4511
・結婚や子育ての資金について、最大1,000万円まで非課税にできる特例 ・父母や祖父母などがその子どもや孫などに対して行う贈与が対象 |
※各種特例ごとに細かく要件が定められているため、活用する場合は要確認。
また、贈与時の負担を軽減するには「相続時精算課税制度」の利用も有効です。特別控除額2,500万円に達するまで贈与税の負担を回避し、その分を相続税で精算するという課税の仕組みです。
同制度に関しては近年法改正が行われ、特別控除に加え、毎年110万円の基礎控除も使えるようになりました。暦年課税(1年ごとに課税を行う原則的な課税方式)での税負担と比較しながら生前贈与の進め方を検討すると良いでしょう。
生前贈与を行う場合の注意点
生前贈与によって節税対策に取り組むときは、以下の点に注意してください
- 生前贈与加算によって、贈与財産にも相続税が課税されることがある
- 生前贈与が遺産の前渡しと評価されると、特別受益として相続財産への持戻しが行われ、相続分が少なくなる
生前贈与加算による相続税の課税
余命宣告を受けた後など、相続開始が予期される場面で生前贈与を行っても、節税効果が得られない可能性があります。
贈与税における特例を使った場合は取り扱いが異なりますが、特別な制度を使わず贈与を行った場合、「相続開始前7年以内に贈った財産」は結局相続財産の一部として含めて相続税の計算を行わないといけないのです。これを「生前贈与加算」と呼びます。
生前贈与加算の改正と適用期間について |
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・2024年から生前贈与加算に関する改正がなされており、改正以前は「相続開始前3年以内に贈った財産」が対象であったが、4年伸長されて現在の形になった。 ・伸長された4年分に関しては、贈与財産の合計額から100万円を控除して相続財産に加算する。 ・ただし、法改正前の贈与財産については適用されないため、2023年以前に関しては「相続開始前3年以内に贈った財産」のみが引き続き生前贈与加算の対象。 |
このルールが適用されることによって、例えば贈与税の基礎控除額110万円以内で毎年贈与を行っていたとしても、その後相続が開始されると数年分の生前贈与については贈与がなかったものとして計算しないといけません。
一方で例外もあります。
上記のおしどり贈与や一括贈与の特例などを活用した場合は、相続の直前であっても生前贈与加算の対象にはなりません。そのためこれらの特例を活用した贈与はぎりぎりの節税対策として有効なのです。
特別受益としての持戻し
生前贈与加算のような税金の問題とは別に、遺産分割の相続分に影響する「特別受益」の問題も生前贈与によって起こり得ます。
相続人が過去に、被相続人から「遺産の前渡し」ともとれる贈与(これを特別受益という。)を受けていたとき、その贈与財産を相続財産に組み込んで各自の相続分を調整するルールがあるのです。このルールは「特別受益の持戻し」とも呼ばれ、特別受益を受けたと判断された相続人はその分取り分が少なくなってしまいます。
節税を意識し過ぎて相続人の取り分が少なくなってしまうことのないよう留意してください。
ただ、おしどり贈与に関しては特別受益としての持戻しはありません。また、一括贈与の特例を利用したときなど祖父母から孫に対する贈与の場面でも基本的には持戻しは行われません。持戻しの対象は相続人に対する贈与ですし、それが「生計の資本」と評価された場合に限って適用されます。
生前贈与を行う際のポイント
生前贈与で節税対策を図る場合は、生前贈与加算や特別受益の持戻しに注意しつつ、以下のポイントにも着目しておくと良いです。
- 身内で揉めないように配慮すること
- 贈与の意思を明確化すること
- 認知症になる前に贈与すること
- 名義預金にならないようにすること
これらの点に配慮ができていないと、節税効果が得られなくなったり別の問題が起こったりする危険性があります。
身内で揉めないように配慮すること
生前に贈与を行うことで将来の相続税を減らすことも可能です。また、生前に相続人へ金銭を渡しておけば相続税の支払い、あるいは遺産分割時にかかる費用に充てることができます。
このように、生前贈与によって相続税の節税や相続税の支払いに向けた対策を打つことができますが、「相続開始後に家族が揉めないように配慮すること」もとても大切です。経済的な問題を解決できても、人間関係が悪くなってしまっては対策が成功したとはいえないでしょう。
そこで税金のことだけを考えるのではなく、生前贈与を行うことによって他の家族がどう感じるのか、贈与を受ける方のみならず身近なさまざまな方の気持ちも考えるようにしましょう。
贈与の意思を明確化すること
生前贈与は贈与契約に基づく行為です。契約ということは、それが有効であるためには双方の意思表示が欠かせず、贈与者による「○○をあげます」という意思表示、受贈者による「○○をもらいます」という意思表示の両方が必要です。
この意思表示が確認できないと税務署から「これだと贈与があったとはいえない」と、生前贈与が否定されてしまうリスクがあります。節税できたと思い込んでいても、後から相続税を追加で支払わないといけない事態になるかもしれません。
そのため生前贈与を行うときは「贈与契約書」を作成しましょう。
贈与契約書が適切に作成できていると意思表示の証明が容易になります。作成の際は「あげる人」「もらう人」「贈与財産の内容」「契約した日」「当事者の氏名・住所」「当事者の署名」を確実に記載しておきましょう。
認知症になる前に贈与すること
贈与者が認知症であると、法的な有効な「○○をあげます」の意思表示ができません。厳密には認知症かどうかで一律に区別されるわけではありませんが、契約内容とその影響について理解できるだけの判断力がなければ意思表示として有効ではありません。
認知症になっていると意思表示が無効とされてしまう危険性が高くなりますので、その後節税対策を無理に進めようと生前贈与をさせるのは得策ではありません。
もし生前贈与を行うのであれば税理士や医師などの専門家協力の下で進めるようにしましょう。医師による診断書など、契約を交わすのに必要な判断能力があったと評価できるだけの資料を備えてから実行していきます。
名義預金にならないようにすること
「○○をもらいます」の意思表示も欠かせません。これがない例として「名義預金」が挙げられます。
贈与者が節税対策のつもりで子どもや孫名義の口座を作りそこにお金を入れていたものの、名義人自身がその入金の事実について知らない場合の名義が名義預金にあたります。
実質的な所有者は入金を行っている人物であり、もらう側の意思表示もありませんので、贈与契約が交わされたとはいえません。税務署から名義預金であるとの評価を受けることによって税負担が増えることもありますので注意してください。
名義預金かどうかの判断は簡単ではありませんが、以下のポイントをすべて満たせば名義預金ではなく生前贈与として評価されやすくなります。
- 名義人が財産について知っていた
- 名義人が「もらった」と認識している
- 贈与契約書を作成している
- 贈与税の申告をしている など
- 名義人が財産の管理や運用をしている
- 通帳やカードを持っている
- 銀行印を持っている
- 申込みや手続を行っている など
相続開始後でもできる対策
被相続人が亡くなってからだと生前贈与はできませんし、できることに限りがあります。
ただ、相続開始後からでもできることはあります。
- 小規模宅地等の特例を適用する土地の選定
複数の土地があるとき、特例を適用する土地の選び方によって相続税の額が変わることもあるため。 - 財産の評価額を見直す
財産をよく調べ、細かな減額要素まで見逃さないようにして評価額を下げる。 - 二次相続を意識した遺産分割を行う
被相続人の配偶者が相続人となる場合、その後配偶者についての相続(二次相続)が起こる場合も想定した遺産分割を行う。配偶者が多く遺産を取得してしまうと二次相続での税負担が大きくなるため、「一連の相続全体で発生する相続税」を小さくするための分割方法を考える。
また、ご自身で相続税の計算や申告に対応していると、使える優遇措置や特例、税額控除などを見逃してしまうおそれもあります。税理士に対応してもらい使える制度を確実に活用し、想定より税額を下げられることもありますので、プロに計算してもらうことも検討しましょう。
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